司馬遼太郎、昔は好きな作家でした。しかし、歴史を知れば知るほど、少し敬遠する気持ちがでてきました。司馬史観というものが定着したのが問題だと思います。
司馬遼太郎の作品と言えば
司馬遼太郎の作品と言えば「燃えよ剣」「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」「坂の上の雲」などが特に有名です。これ以外にも「世に棲む日々」「花神」「項羽と劉邦」「功名が辻」なども読みました。非常に面白いのですが、戦争経験者であったことも影響しているのか、「翔ぶが如く」「坂の上の雲」の内容には多くの問題が含まれていると思います。
この時代の空気感を膨大な資料を読み込んで、瑞々しく描写されていることは非常に大きな功績になります。物語としても非常に面白いです。しかし作者の問題なのか、それとも世間の受け取り方の問題なのか、司馬史観として、あたかもフィクションが実在の歴史のようにとられてしまったのは、非常に問題だと思います。
一番の問題は乃木希典の評価だと思います。作者の思想が影響しているのか不当に貶められています。
旅順攻囲戦 海軍の失敗
乃木希典が不当に貶められている一番の原因が旅順攻囲戦です。司馬遼太郎曰く、無謀な突撃によって、多くの命が失われたのは、無能な乃木希典が突撃戦法しか知らなかったかららしいです。児玉源太郎に指揮が変わって、攻略法を変更したらあっという間に要塞攻略ということらしいです。そして、この悪弊が昭和陸軍にも伝統として生き残ったらしいです。
ちなみに日本海海戦の大勝利によって、日本海軍は持ち上げられています。また昭和に入っても二・二六事件や関東軍の暴走など数々の暴挙を犯した陸軍に対して、海軍は比較的理知的に思われることが多いです。
しかし、そもそも海軍が数々の作戦失敗を犯した結果、旅順にロシア海軍がこもり、問題となって陸軍に要塞攻略を要請したという事情があります。尻ぬぐいの結果が陸軍の夥しい犠牲になるわけですから、日本海海戦の結果を持って海軍の大成功はおかしいです。
旅順攻囲戦 近代要塞の攻略
そもそも旅順はロシア帝国によって、近代要塞として十分な要塞となっていました。そもそもこのような近代要塞を攻略する方法は、この歴史の時点では確立されていませんでした。その後の第一次世界大戦のヨーロッパ戦線でも、近代要塞の攻略には陣地を確保しながらの、地道な突撃方法しかなく多大な犠牲を払って要塞攻略が行われています。今の兵器を参考にしながら、過去の戦争を分析すると、無謀な作戦にしか感じられないでしょうが、同じ土俵で考えるのはフェアではありません。
しかも軍事の専門家による研究では、乃木希典はできうる限り合理的な戦法によって要塞攻略を行っており、児玉源太郎による指揮変更によって簡単に要塞攻略ができたのは間違いだと言われています。
奉天会戦
旅順要塞攻略を果たした乃木希典率いる第三軍は休むまもなく、奉天に移動してロシア陸軍との会戦に挑みます。この戦いはこの時代で最も多くの陸軍同士による会戦となりました。ロシア陸軍も日本陸軍も多くの犠牲を出しています。乃木率いる第三軍もこの会戦で大きな活躍をしました。しかし司馬遼太郎によると、乃木希典は活躍していないとなります。この辺、昭和陸軍に対する恨みを感じるのは私だけでしょうか。
日露戦争後の乃木希典
日露戦争で、乃木希典自身二人の息子を亡くしています。また、多くの将兵を犠牲にしてしまったことを深く後悔しています。しかし、無謀な要塞攻略を命じられた乃木希典よりも、命令した上層部(参謀本部)にこそ問題があります。しかし乃木希典という人格はそう思えなかったのでしょうね。自殺も考えていたのですが、これは明治天皇に止められています。
その後は教育者への道を歩んで、昭和天皇も乃木希典による教育を受けています。昭和天皇の人格形成にも大きな影響を与えています。
フィクションはフィクション
あくまでも司馬遼太郎の作品はフィクションであり、歴史的事実ではありません。あたかも。司馬遼太郎の「翔ぶが如く」が史実のように乃木希典は無能、凡将という評価が行われるのは残念でなりません。
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